黒揚羽 手を放されて いつまでも 童の心 掴み離さぬ
下校中の道すがら
みかんの木に一匹の芋虫が
おいしそうに葉っぱを食んでいた
虫取り少年は喜んで
葉っぱを何枚か手折って
幼虫ごと嬉々として持ち帰る
それを虫かごに入れて
玄関に置いて飼っていた
毎日元気に葉っぱを食べて
すくすくと育っていく
そのうち繭を張り
茶色いさなぎになった
風邪をひいて学校を休み
ある朝、起きて玄関を見ると
なんと黒いアゲハ蝶が
ひらひらと飛んでいるではないか
さなぎから羽化したのだ
「母さん!ちょうちょになっちょるよ!見てみて!」
クロアゲハは少年にとっては大きく
真っ黒ではなく橙色の模様があった
ずっとそばに置いておきたかったが
「ちょうちょも外の世界を見たいと思うよ。かわいそうじゃけえ放しちゃろうや。」
と母親が言うので渋々従った
親子は家の庭に蝶を放した
クロアゲハは嬉しそうに庭を舞い
そのうち日当たりの良い
畑の方に飛んでいって見えなくなった
虫取り少年が大人になっても
たびたびアゲハ蝶は現れる
言葉もなくただ彼の前を舞って
何かを伝えたいかのように
小烏の 虫愛づる君 どこへ行く 地に導かれ 天の社へ
