この命は助かるのか
我が友、メロスよ
すべては君にかかっている
君は俺を人質にした
暴君ディオニス王は
嬉々として十字架にかけた
俺はそれを買って出た
君を信じているからだ
この美しき大鴉の国で
俺は街の石工
君は山の羊飼い
俺たちは共にここで育った
幼き頃より絆を深めた
山を駆け回り海で泳ぎ
街に繰り出して遊んだ
時には喧嘩もしたが
俺たちは互いに高め合った
神も照覧しておられる
だがこの不安はなんだ
竹馬の友である俺たち
君を露と疑ったことはない
王を哀れに思っていた
人を信じられぬ哀れな男と
しかしいま俺は彼の気持ちが
少しわかる気がする
人を信じられぬということは
これほどまでに苦しいことか
彼はどれだけ裏切りに遭ったか
神よ、憐れみたまえ
ああ、日差しが焼けるようだ
この三日間、雨ざらしだ
王は得意げにほくそ笑んでいる
群衆も諦めて君を非難している
俺たちの友情は勝てないのか
人の疑心という不幸に
君は俺を見捨てたのか?
なぜ三日経っても現れない
王との三人の約束だ
もうすぐ日が落ちる
そのときまでの命だ
空に三日月が浮かんだ
いま俺は疑いを超えて思う
本当の友情とは自分の命よりも
友を優先することではないのか
メロスよ、走らなくてもいい
君たち家族を幸せにしろ
俺はそのためなら犠牲になろう
ただ君は罪悪感を持つ
だから王と群衆に呼ばわる
私、セリヌンティウスは
自ら友のために死を選んだと
刻限のころ王は満悦して
彼を鞭で打ち釣り上げた
西の山に夕日が沈みかけている
そのとき、残光の中で
颯爽と泥だらけの青年が
刑場に飛び込んできた
彼は間に合ったのだ
「待て!その人を殺してはならぬ」
メロス!ああ、来てくれたか
一度でも疑った俺を許してくれ
なに?君も裏切ろうとした?
お互いに殴り合おう
それでおあいこだ
哀れな王も泣いている
彼は人の心を取り戻したようだ
俺たちの仲間に入れてやろう
友情に差別はないのだからな
神よ、我が国を守りし烏の神よ
ご覧になっておられましたか
あなたを悲しませるようなこと
私たちにはできません
しかれどもメロスの信義は
あなたが授けたもうたもの
哀れな王を闇の底から
救いたまい感謝いたします
我らの栄光は国の誉れ
南十字星の象徴として
頭上の月桂樹のように
久遠に輝き続けるでしょう
