うららかな春の日 わたしは小烏神社に登った
自宅から小烏の山を仰ぐと 幼き頃に憧れた変わらぬ風景が目に入ってくる
わたしは神にいざなわれるように麓の鳥居をくぐり 神社の階段に足をかけた
いったい何度 この階段を登ったことだろうか
階段の下の方は 河野家の荒れ果てた土地が広がっている
そこを不動明王の慈救咒を唱えながら 一段一段とゆっくり登っていく
中腹の曲がり角に差し掛かると 一直線に伸びた境内までの階段が聳え立っている
両脇は杉の大木たちが囲み 春風でざわめいている
奥の境内がある空間には あたたかいひだまりでぼんやり輝いている
わたしはこの光景が好きだった
中間まで来ると左脇に記念碑が立っている そこでひと休みだ
上を見上げれば まだ階段が長く続いている
小鳥のさえずりを聴きながら少しずつ登っていくと もう神社の近くまで来たようだ
右側にはうねるような生え方をした大木が立っている
やっと境内まで着いた
ぜえぜえと息が切れている 子供の頃はそんなことはなかったのに
境内には一本の楓が立ち 春のため瑞々しい新緑を見せてくれていた
小烏の社を眺め 一礼して古びた石の鳥居をくぐる
両脇には神社のいわれが刻まれた石柱が立ち 阿吽の狛犬が守っている
お社のそばには巨大な岩があり 霊石であり磐座でもあった
わたしは賽銭箱に小銭を入れ鈴を鳴らし 神道の作法で拝礼した
しばらく祈った後 霊石の方に寄り両手で触れた
苔むしてざらざらした触感が いかにも歴史を感じさせた
それはわたしの祖先もしてきたことだろう
わたしは願い事というより 祖先との繋がりを感じることに満足した
お社の後ろには 八咫烏の三本足を象徴するかのような三股に分かれた大木が立っている
その奥の小道を進んでいくと 宮司が河野家のものだという井戸がある場所に着く
そこから眺める小烏の杜は極めて美しい
たくさんの木々が生い茂り 木の葉がそよそよと風に揺れ 見上げると少しだけ青空が見える
そこでは時間も忘れて ずっと佇んでいることができる
心地よい木漏れ日や鳥の鳴き声 自然の力に癒されていく
わたしはお社の前でよりも ここでより神を感じるのだ
しばらく佇んだ後 神の御力をいただいて家に帰るのだ
それも帰り際に何度も社殿を見返して 祈るような気持ちで小烏を後にするのだ
階段を降りていく時も 最後に振り返って奥のあたたかい空間を見上げる
思わずただ「神様」と心の中で呟く
神に栄光あれ
